「主張」第21回「保険研修について思うこと」

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「主張」第21回「保険研修について思うこと」

 新緑の候、新事業年度も一カ月が経ち、未来を夢見る新入社員諸氏は入社式の興奮も覚め、研修に勤しんでおられることかと思う。

 業務研修といえば筆者には忘れられない思い出がある。昔、損保業界には海外の保険学校へ派遣する制度があった。現地の研修講師に一人の英国人(ERIC JELFS氏)がいた。保険の原理からリスクマネジメントそして経営まで、懇切丁寧なしかし厳しい研修指導を受けながら、教師とはかくあるものかと驚愕させられた。それもそのはず、後に、彼の著書「The Insurance Instructor」(保険教育担当者)A guide to the training officer and his team with particular reference to the teaching of new entrants(新人社員教育に特に重点を置いた研修担当者およびその教育チームのための手引き)発行Chartered Insurance Institute(英国勅許保険協会)を読んで合点がいった。それはまさに保険教育の専門性についての再認識を問うものであった。

 要点のみの紹介になるが、半世紀以上前の英国保険業界では、保険商品の複雑化、法制度の高度化、その範囲の広がりが進むなか、新人教育の必要性は高まり、企業内教育制度を組織的に整備することが大きな課題であった。保険理論が理解できない、業務知識が不足していると悩むのは新入社員のみならず先輩社員も多かれ少なかれ然りであった。企業教育の専門職化、すなわち教育はOJTではなく専門的職務として扱うべきとして、トレーニングオフィサーと教育チームの設置を掲げた。同時に教育計画、教材開発、教育活動、学習評価について詳細な解説を展開した。一方的な講義だけでなくケーススタディも重視した。保険業務はリスクの判断・解釈・評価などを基本としており実際の事例の分析は欠かせない。さらにグループ討論や問題解決型演習も大事だ。そして、教育担当者の資質として専門知識、教育能力、人間理解、忍耐力、組織理解を挙げている。

 最後に、企業教育の最終目標は教育(研修)文化を形成することだと置き、それは学習を重要視する組織風土、知識共有、能力開発が日常的に行われることだと言う。現代の企業研修ではデジタル教材や能力開発重視など異なる側面はあるものの、上述の観点は今なお示唆に富むものと考えられる。

 さて、損保の業務は、お客様、代理店、関係会社など多方面かつ広範囲におよび、その運営システムは多数の異なる業務プロセスの集合体となり複雑な構造を呈している。そのため、情報システム企業が多岐にわたり関与、支援しており、そうした企業の人材の育成は欠かせない課題として位置づけられる。(株)トムソンネットは、創設来、主に情報システム企業のお客様を対象に損保業務全般の研修を提供するサービスプログラムを開発し、2004年10月に研修講座を立ち上げた。この研修には岩本堯・鈴木治の両氏によって制作された教材「損保SE講座」を使用した。その後、生保講座も開設し、毎年教材をアップデートして現在に至っている。累計受講者数は優に5千名を超え、当社のビジネスの重要な柱となっている。

 ZOOMによるリモート研修、また日々の疑問などはAIに尋ねれば即座に回答してくれる現代、生身の人間が講師として対面で講義し、受講生も互いに対面で討論や演習を行う機会は少なくなった。しかし、上記の著書に示された文化が消えるとは思えない。人間が人間である限り大事なものはきっと残るはずだ。

(小島修矢:トムソンネットSBP)