「主張」第19回 「最も変わるべきは企業契約者ではないか!」
ビッグモーター事件、企業等での保険料見積りにおけるカルテル行為、個人情報・顧客情報の漏洩という損保業界の3つの不正事案が明らかになった。これらに共通する原因は損保会社の判断・行動基準があるべき基準と乖離していたことである。損保業界は旧来のビジネス慣行を継続してきた。行政はそれを構造的課題と捉え、保険会社や保険代理店への監督規制を改める。顧客本位の業務運営の徹底と健全な競争関係の実現を目指すものである。それを受け、損保会社と代理店は業務改善の取組みや新たな規制への対応を始めている。しかし、損保会社の業務運営や保険募集に関する制度・ルールの変更だけで、健全な企業保険取引は実現するのであろうか?企業損害保険市場における変革について、望まれる姿を述べたい。
損保会社は、政策株式を売却し、過度の便宜供与は禁止されるため、「保険本来の機能とサービスで選ばれる会社になる」ことを目指している。それは、個々の企業のリスク特性に応じた補償内容の提供と事故・災害の事前事後の防災・減災のソリューション提供である。ビジネスモデルの変革であり、企業契約者のリスクマネジメントに資する取組みである。
但し、地震やサプライチェーン中断のリスクなどについては、想定しうる事態への幅広い補償や十分な補償金額の提供はできていない。プロテクションギャップの一つである。そのようなリスクについては、大手損保は補償よりも防災・減災サービスの充実を図ることで顧客ニーズに沿おうとしている。しかし、保険会社である以上、十分な補償の提供にも努力してほしい。共同保険のあり方も制度改定の中で検討されており、1社では提供できない補償額について、複数の損保会社で提供することは顧客の利益になるものである。いびつな競争にはならない形での共同保険の仕組みの実現を期待する。
保険代理店も変革を求められている。企業内代理店で、強化される特定契約比率規制をクリアできない者は存続できなくなる。乗合代理店は、「ハ」方式、すなわち特定の保険会社との資本関係や事務手続き等を推奨理由とすることが許されなくなり、商品の概要と商品を絞り込んだ客観的な基準や理由を説明するという、本来の比較推奨説明・販売が明確に義務付けられる。保険とリスクの専門家となって、最適な提案ができるよう変革していくことが求められ、そのような取組みを行っている代理店も多い。しかし、保険料の一定割合の手数料収入しか得られない現状は、トレードオフの関係もあって、代理店のサービス向上のインセンティブにならない。提案するサービスに対して報酬が支払われるような仕組みの導入は考えられないか?契約者側が保険仲介業のサービス内容を評価して対価を支払う仕組みは夢物語なのか。
企業保険市場においては、企業契約者こそが、最も変わるべき当事者ではないだろうか。従来、損保会社の選定やそのシェア決定にあたっては、政策株式や本業支援を重視してきた企業が多く、リスクや保険に関するリテラシーが不足していたことは否めない。企業は、リスクマネジメントに基づき、内在するリスクに対してどのような保険を手配すべきかを自ら判断すべきである。まず、経営トップレベルが主体的にリスクマネジメントに取り組むことが必要ではないか。事業・収益の拡大とリスク管理は、攻めと守りであり、経営の両輪と言える。リスクマネージャーの設置も有用である。それらを実現するような、企業風土の改革と風土改革を促す制度、リスマネージャーを育成する教育・制度の整備等リスクと保険の専門家が評価される仕組みの導入が望まれる。リスクマネージャーを設置し、リスクマネジメントにきちんと取り組む企業に対し、何らかのインセンティブを与えることも一法である。
(トムソンネットSBP:柳 英夫)