訴訟大国アメリカでの株主の役割   

日本では、WHを買収した東芝さんは、これから、多くの試練に立たされるだろうと心配されているが、アメリカでは、争い事は、法廷で、ということが常識となっている。裁判制度の云々については、専門家に任せることとして、米国で生活していて最近の体験を通して、若干見えてきた側面をど素人の観点から。          

アーコニック Vs エリオット

米国で長期に渡って現地の会社に勤めている場合、多くの会社では、正規雇用の場合は、各自が給与の一部を税引き前に積み立て運用し、老後の生活費の一部にする401Kのプランを提供している。

私が投資運用を任せているのは良心的な小投資会社で、ここ20年程、自分の投資がどの会社にどれくらい保有しているのか、など、考えもしなかった。
例年、4月5月は、多くの会社の株主総会の時期で、ネットでも投票できるのだが、それも面倒になって、ろくろく投票せず、というていたらく。
(無回答の場合は、会社のボードの決定に投入される。)

だが、今年は違った。

以前アルコアという名のアルミ製造の会社が、ある時スピンオフしてアーコニックという名前になったそうだが、そこのCEO(と率いる役員団)に対抗して、エリオットという投資顧問弁護士事務所が、通常の株主総会に待ったをかけたのである。

私の家に今月にはいり、この会長組とエリオット組が、相互に、株主総会の投票用紙を送りつけてきた。
ご丁寧にも、会長(現幹部)支持の場合は、白色、対するエリオット組は、青色、と色違いで、すぐに識別できるようになっている。 また、現在の投資会社(実際の運用を担当)も現体制を後押しをして、エリオットは、無視するように、との勧告書まで送ってきた。
週に2通は、同じセットが配布され、どちらも、是非、こちらに投票を、と、迫ってくる。私の記憶では15年位前に、HP社で、同様の騒ぎがあったくらいである。

だが、今回は、エリオット社の攻勢は激しく、しかも、何故か、という「説明」書を送ってきた。 若干長いが、以下は、その内容である。


エリオット社の株主宛て主張
昨年8月の「投票権の乱用と秘密協定」について以下わかりやすく説明いたします。

不適切な投票権の買取、株主権利の不当売買, 重要情報の非開示・秘匿。            
次々明らかになる幹部の誤算による経営で会社の財務内容は、本来の健全な資産の蓄積をダメにする。  

以下は、過去の経緯から。



2014年11月20日
アルコア(ALCOA Inc.) - 現在のアーコニック・インク -は、Firth Rixson社を現金及び株式併せて$3billion で買収した。当時のCEOのクラウス・ケインフェルト博士は$16 billion の売り上げ収入と$350 million の粗利(EBITDA - 利息・税・減価償却・償却期間残存分などを減額する以前の収入)を2016年までに達成すると約束。

2014年11月から2016年8月
Firth Rixson社の実績は、大幅に低く、収入は見込みの40%にとどまり 会長の約束した粗利の60%しか達成できなかった。アーコニック社は、売主のFirth Rixsonに対し、違約について、法的措置を取らざるをえないだろうという事態だった。

2016年8月18日
アーコニック社は、法的措置の結果、アーコニックの一般株式8,700万株を二年間売却せずに一括保持することを条件に現金$2千万で、示談決着とした。ただし、この8月の秘密文書には、Firth Rixsonの前オーナーが2017年3月1日の株主記録時点で所有する全株を、2017年の株主総会時に、クラインフェルト氏の意向に従って投票する、という秘密協定を含んでいたのである。 8月17日(昨日)の時点で、株の売値は、逆スプリット(訳注:通常は、一株を半値にして、倍の数にするのを、逆に2株を1株にし、株価をつりあげること)にする決議をボードで決めたのだが、アーコニックとしては、この株に関する密約を開示したくなかったのだろう。

2016年10月5日
アーコニックの株主総会で逆スプリットは、賛同を得た。8月の密約は開示されず、その後の10〜Q、10ーK(訳注 10Qも10Kも株の取引のある一般企業は、4半期・年度などで、財務諸表で開示しなければならない会計報告書、バランス・シートに含まれる)のいづれにも含まれていなかった。

2017年3月13日
2017年度の株主総会出席権をさだめ、この日以後の売買は認められないにも関わらず、アーコニックは密約についても何ら開示せず、全135ページの内、単に36ページ目で2行で「同意書」について述べたにすぎない。

2017年3月16日
エリオット(投資顧問弁護士団)はアーコニックのボードに対し、情報の開示を求め、誰が交渉をし、何を決定したのかを開示すべきだと主張したが、その後7ヶ月に渡って、開示なし。

2017年3月20日
アーコニックは、8月の密約の開示には同意するも、契約の詳細な記録は開示せず、また、誰が決定責任者だったのかについても開示しなかった。アーコニックは、これまで、開示しなかったのは、Firth Rixsonが記録日にアーコニックの株を持っていたとは知らなかった為だと主張。だが、実際にはアーコニックのある役員は、売り手のFirth Rixsonと親しく、逆スプリットの上場決定日を2週間も越えながら、書類に署名している。この場合は、全書類を開示するべきである。

2017年3月16日から27日まで
アーコニックは、開示拒否を続ける。

2017年3月27日
エリオットは、アーコニックのボードおよび重役にあてて、開示拒否を続ける理由と、さらに開示を要求。
一体会社は何を隠しているのか?

2017年3月28日から現在まで
アーコニック側は、沈黙を守り、株主に対し8月の密約や、合意書を開示せず、一連の事項や合意書についても秘匿を続けている。

アーコニック社の全て、一人一人の社員はCEOも含めて、会社定款に従わなければならない。我々エリオットが求めていることは、アーコニックの経営陣は、トップも、一般社員も同じ規律規範をお互いに守らなければならない、につきる。パーク・アベニューの最上階で、トップの役員がヌクヌクとしている一方、一般社員に規律を求めることは、片手落ち以外のなにものでもありません。

英文オリジナルはこちらから



そして、その後・・・・・

尚、アーコニック社のCEO クラウス・クラインフェルド氏は、4月17日付で辞職したとのロイター社発の記事(2017年4月20日付)がはいった。だが、現在に至るまで、アーコニック社としては、従来通りの経営陣で株主総会を乗り切る旨の文書をだしている。
株主総会は5月16日だが、今後、前会長に関わる法廷闘争は長引くかもしれない。
両陣営の主張では、何となく前CEOの手が後ろに回るのか、と、思ってしまったが、本当のところは判らない。

ただ、両陣営とも、株主(の持株数)がどれほど小さくとも、すべてルールに従って勧め、株主の積極的な投票を促しているのが、透明性を増す一つの弁法になっているのかな、と、思った次第。

昨日、更に届いたエリオット側からの文書には、「是非、青色投票を願います」とのこと。電話でも、郵送でも、インターネットでも、手段は3通りあります、と。  (英文オリジナルはこちらから)


筆者紹介
宮平 順子(Miyahira Yoriko)

東京都出身 1945年満州生まれ(同年引上) 現在、米国在住
昭和53年、NYの保険代理店モリタ&カンパニーに入社、以来顧客サービス、日系企業を対象としたブローカー業務に携わり、副社長として代理店の窓口業務を通して、社内のシステム・事務管理を統合、ETC, Liberty, Appliedなど代理店システムを初期の段階から導入し、事務処理要領・マニュアル等整備し、社内の事務指導にも携わる。
現在はNY, NJの保険代理店でアドバイザー・コンサルタントとして活躍。特に米国進出の日系企業に保険を通してアドバイスをしてきた経験と実績が豊富。
取得保険資格 NY Broker’s License,CPCU, CIC, AMIM 
株式会社 トムソンネット シニアビジネスパートナーとして米国の保険業界と日本の保険業界の橋渡し役として活躍中。


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