「主張」第11回「共同保険の在り方」

 最近の損害保険業界における大手三メガ損保社の共同保険を巡る課題は談合であり、契約者保護に反するビジネスモデルとして、強い指弾を受けている。共同保険の基本は、複数の損保社が、企業分野のリスクを引受けるに際して、リスクが巨額になることから一社単独引受けが困難となる場合や当該保険契約者とそれぞれの損保社との取引関係の濃密度合いにより保険契約者側から引受に際して、分担割合を指定してくる場合もある。
 後者の場合は、契約者サイドの強い意向が働くことから、引受損保団は、その意向を反映した形での引受けを行うことになるので、契約者保護に反するとの見解を示すことは困難と考えられる。また、前者の場合であっても、契約者を交えての透明性を確保し、引受条件や保険料について論議をし、契約者が納得・合意する形での引受けを行うのであれば法令違反を問うことは難しいのではないかと思われる。

 談合と指摘のあった事例を報道されている範囲で推測するに、契約者側にとっては、透明性に欠ける方式がとられていたようであり、契約者側の意に反する形で損保社側との取引慣行が続いていたと思われる。
 複数の損保社を相手に保険契約の締結条件を交渉する場合に、契約者側は、契約条件の良い損保社に引受を依頼したいというスタンスは明らかで、しかも、良い契約条件とは、「安い保険料」という基準が最優先されることも明白と考えられる。しかし、企業が抱えているリスクは、大企業になればなるほど、多種多様で、リスクの規模もひとつ間違えば大規模な損失を発生させる可能性をはらんでいることも多いことから、個々の損保社が当該リスクをどう評価し、判断するかという点は、一律ではないと考えるのが妥当だろうし、さらに、当該リスクに対して再保険市場がどう評価するのかという点なども含めると、統一性を求めることは極めて困難と判断せざるを得ない。

 損害保険が対象とする不確実性の塊であるリスクの引受けというビジネス特有の性格から生れ出た共同保険の手法は、契約者側の利便になることを目的としていたにもかかわらず、共同で引受けるというプロセスにおいて法令違反を問われる事態になったと言わざるを得ないと思う。
 しかし、共同保険には、損害保険の基本を無視した耳を疑いたくなるような点もある。それは、保険事故発生後の幹事社の対応であり、非幹事会社との関係、いわばプロ同士の関係である。典型的な例として、2011年10月6日に公表された中部電力と日立製作所の発電タービンの羽根の欠陥を巡る訴訟が和解した事案で、和解金額は90億円相当。日立側の損失は、当時、共同保険で複数の損保社が引受けていた。幹事社が90億円を支払った後に非幹事社に分担割合に応じて回収をかけるのが共同保険の仕組みだが、非幹事の某社に回収をかけてきたのが、決算で多忙な3月某日。10億円近い数字が記載された書類を受取り、当該非幹事社の損調、業務、経理といった関係部署では、大騒ぎになったという。

 ここで、損害保険の基本的なプロセスは、まず、10月6日以前に幹事社から、Loss Adviceという形で予想される支払保険金の額を明記して事故概要が各非幹事社に通知されていることが求められると思う。なぜなら、支払備金という損保会計上重要なファクターを無視することはできないし、再保険会社等に対しても通知が求められるからだ。残念ながら、最近、回収額は異なるが、Loss Adviceが無い形でCash Callをかけてきた損保社への対応を求められた。未だに保険事故の際のプロセスが改善されていないという印象を受け、日本の損保市場のガラパゴスがここにもあることを再認識した。
(板倉貴治:トムソンネットSBP)

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