「主張」第10回「顧客満足度からみる生保のビジネスフロンティア」

 日本は、人口減少時代にすでに突入している。生命保険平準払保険料の主な担い手である現役世代は、今後も毎年1%弱ずつ減少していく。単純化すれば、10年で1割近く市場が縮小することになる。生保会社はすでに様々な対応を取り始めているが、更なる対応の必要性も高いといえよう。

 筆者らは、生命保険文化センターが実施する「生命保険に関する全国実態調査」の個票データを用いて、同調査が尋ねる顧客満足度に関する分析を行った。ここではその内容の一部を紹介することで、顧客満足度という視点から顧客を捉えなおし理解することが、ビジネスチャンスにつながる可能性について示していきたい。

 以下、書籍「激動する時代に活きる保険―保険商品・販売チャネル・事業組織の変革―」(税務経理協会、2025年1月発刊)第3章所収の論考を参考に記述する。なお、本稿の主張は筆者個人のものであり、論文執筆者の総意に基づくものではないことを付記しておく。

 同書における重要な発見の一つは、満足度を尋ねる通常の質問からは見えない、潜在的な不満層の存在が確認できたことである。それは直近契約の加入チャネルに対する不支持という形で表れており、「今後の加入希望チャネルとして、直近加入チャネルと違うチャネルを選択した者の割合」は、2006年の調査以降、常に20%台後半の水準にある。

 これだけ多くの加入者が次は別のチャネルから加入したいと考えているということは、明らかなビジネスチャンスといえる。そうした顧客の発見、適合チャネルの把握、アプローチ方法など、チャンス具現化のための課題は残るものの、全体として縮小していく市場の中で、これだけの規模で新たな顧客獲得の機会があるという事実は、見逃すべきではないだろう。

 現在、ほとんどの生保は何らかの形で顧客満足度調査、もしくはそれに類する調査を実施している。満足度を尋ねる従来型の調査で高水準の数字となったことを開示している会社も多い。だが、今回の分析からは、従来のやり方では潜在的な不満層を把握できていない可能性が高いことがわかる。

 したがって、効果的な代替策をとることは、業績にプラスの効果をもたらすことにつながろう。たとえば、NPS®(ネット・プロモーター・スコア)や推奨意向の計測を行いつつ、ネガティブ回答者の理由把握に力を注げば、従来チャネルの販売手法の改善、新チャネルでの新規顧客開拓、そしてロイヤルティの高い顧客の獲得・維持などのメリットが得られるだろう。

 同書の分析では、上記以外にも、チャネル選択と顧客のチャネルに対する期待が密接に関連しているだけでなく、顧客により大きく異なることなど、様々な興味深い傾向が明らかとなっている。縮小する市場の中でビジネスフロンティアを見出すには、従来の視点にとどまらないやり方でデータを分析し、顧客を理解することが不可欠である。
(山本祥司:トムソンネットSBP)

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