「主張」第9回「現行料率制度はADASに適合的か」

日本では、自動車保険の料率はフリート対象車以外はノンフリート等級別料率制度によって運営されている。この制度では、初めての自動車保険の契約は6等級に格付けされ、その後保険金の支払いがなかった場合は1年ごとに1等級繰り上げ(保険料は安くなる)、保険金が支払われた場合は3等級繰り下げすることによって(保険料は高くなる)、保険料の調整が行われている。これは、火災保険等の料率が付保対象物ごとに外形的に決められるのに対し、自動車保険の運転リスクは運転者の外形ではその程度の判断ができにくく、運転履歴を考慮することで運転者の運転リスクを判断しているためと考えられるが、運転能力という個人の特性の評価は、運転に必要なほぼすべての要件を人の能力に依存するという前提でなされている。(自動車保険の料率には車種の要素も含まれるが、車種は外形的に判断できるものであり、運転者の運転リスクの程度にかかわらず車種ごとに一定である)。

 一方、自動運転に不可欠な条件は安全運転、すなわち事故を起こさないことであり、事故防止の技術もこれに伴い急速に進展し、現在では必要とされる人の能力のかなりの部分を機械的に代替できるようになっている。殊に、自動車事故の9割を占めるとされる人為的なミスは大幅に防げることが明らかになっている。
これらの事故防止機能は運転者の特性とは独立に機能する。運転者がだれであれ必ず一定の機能を発揮できるように作られており、事故防止機能はメーカーの車種ごとに定量的に把握することができる。

 2021年国交省「ASV推進検討会」の検討によれば、ADAS(advanced driver assistance system)装着車(以降ADASとする)は人身事故に限れば(物損は検証されていない)、第一当事者の場合非ADASに比べ60%以上の事故防止能力があると報告されている。

では、かかる機能を有するADASに対して、契約初年目は6等級に格付けすること、また、毎年その運転履歴を確認し料率を決めることはどのような意味があるのか。さらに、非ADASとADASとが同じ等級に格付けされるような場合、両者の安全運転能力は同程度と考えられるのであろうか。非ADASで最高等級が20等級であれば、ADASの場合はさらに上の等級も考えられるのではないか。もちろん、ADASにおいても人の運転特性が影響する部分があるので、これは今後とも評価する必要があると思われるが、ADASの機能が運転者の特性を平均化させることも確かであり、非ADASに適用される評価基準をそのまま用いることは、技術革新等で生じる新しいリスク状況に適切に対応しているとはいえないであろう。

とすると、人の能力に依存することを前提とした現行の運転特性評価基準は抜本的な見直しが必要になると考えられる。ADASの料率を、非ADASに適用する料率より幾ばくか下げ、等級制度は維持するといった対応では、リスクに見合った評価方法とは言い難く、新たな制度設計を急ぐべきである。
 なお、レベル4あるいは5の車に対して現行料率制度はまったく不適合になるであろう。
(トムソンネットSBP 大島道雄)

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