「主張」第12回「傷害保険が示唆するもの」

 傷害保険は損害保険関係者の間でもあまり話題にならない保険種目であろう。しかしこの保険が保険料率に関し示唆するところは大きい。
 日本の損害保険の料率には、基準料率(地震保険、自賠責保険)、参考純率(火災保険、自動車保険、傷害保険)、自由料率(新種など)があるが、筆者はさらに団体あるいは団体扱い契約の割引率を加えたい。例えば傷害保険による団体契約では、個々の加入者は傷害保険の料率区分に従って料率・保険料が決まるが、これに加え団体の規模・成績による割引率が適用される。この点は自動車保険等の団体扱い契約でも同じで、個々の契約者に適用される保険料に対して一定の割引率が適用される。すなわち料率がストレートに保険料に直結してはいない。本稿では保険成績による割引について考える。
 傷害の団体契約では保険成績による20%を超える割引率が適用されるケースが見られる。このことは、被保険者単位で見れば、さらに高い割引率を適用できる低リスクの被保険者と、これより低い割引率しか適用できない被保険者がこの団体契約には含まれていることを示していると同時に、団体の大多数の被保険者のリスクは適用されている料率よりは大幅に低い料率での引き受けが可能であることを示唆している(なお、割引率は用意されていても割増率は用意されていないところを見ると、料率区分に従った料率は適正料率よりは高どまりの設定がされていることが推定される)。個々のリスクに対して適切な料率が適用されていれば、団体による成績というフィルターを通しても、これほど大きな割引率を適用する余地はなくなるのではないかと考えられる。つまり、さらに精細な料率を求めることが可能ではないか、現在の料率は必ずしも個々のリスクを適切に反映していないのではないかとの疑問が生じる。
 この疑いは団体を形成し得ない個々の契約にも妥当するが、これらのバラ契約は団体というフィルターを通す機会がないために、適用料率の調整という機会を持たない。このことは、バラ契約にとっては衡平な対応だとはいえない。
 自動車保険あるいは火災保険でも状況はほぼ同じである。ただし、傷害保険ほどには割引率が大きくはなっていないことから、リスクに対する適用料率のずれが傷害保険程大きくはないということであろう。
 この、団体というフィルターによる料率の調整は、損害保険市場において価格競争が充分に機能していないのではないかとの疑いを生じさせる。団体契約あるいは団体扱い契約に関する割引率の適用は算定会料率時代にもあった。1996年に料率の自由化が実施された以降でも相変わらず高い割引率が認められるところからすると、料率の競争という点では本質的な変化は今日まで生じなかったのではないかとさえ考えられる。このことは傷害保険に限らず自動車保険、火災保険にも程度の差こそあれいえるであろう。
 傷害保険は日本の損害保険の料率のあり方を考えるのに格好の事例を提示している。
(トムソンネットSBP 大島道雄)

BLOGサブタイトル
最近の記事
おすすめ記事
  1. Webセミナー(第3期)

  2. column

  3. Webセミナー~2024

  1. 登録されている記事はございません。
TOP